バングラデシュの教育を考えるうえで、子どもが「何語で学ぶか」は大切な視点です。母語を土台にした多言語教育は、家庭で親しんできた言葉を学習に生かしながら、ほかの言語も身につけていく考え方です。今回は、家庭の言葉と学校の学びをどうつなぐかに焦点を当てます。
母語を土台にした多言語教育とは
母語とは、幼いころから家庭や身近な人との関わりで身につける言語のことです。複数の言語に親しんで育つ子どももいます。ここでは、一人ひとりがよく理解できる言葉を出発点にする、という意味で使っています。
UNESCOの2025年の多言語教育ガイダンスは、学習者が理解できる言語で教育を受けられることを重視しています。授業で使う言語、教材、教員の支援を一緒に考える必要があります。出典:UNESCO「Languages matter」。
バングラデシュの言葉を一つに決めつけない
バングラデシュには、ベンガル語(Bangla)に加え、地域やコミュニティで受け継がれてきた言語があります。たとえばUNESCOが紹介する作品集『Of Roots and Heritage』では、チャクマとトリプラの若者たちが地域の文化や経験を記録し、ベンガル語、チャクマ語、トリプラ語、英語で伝えています。これは言語と文化の多様性を示す事例であり、全国の学校で同じ教育が行われていることを意味しません。出典:UNESCOによる作品集の紹介。
支援する側は、国名や外見から子どもの母語を推測せず、家庭で使う言葉と授業で使う言葉を確かめることから始められます。同じ地域でも、子どもによって話しやすい言葉、読み慣れた文字、学習経験は違うかもしれません。
「答えが分からない」と「言葉が分からない」を分ける
UNESCOは、授業や読み書きに使われる言語を十分に理解しているかどうかが、学習に関わると説明しています。出典:UNESCO「Promoting Literacy in Multilingual Settings」。
たとえば、物の数を数えられる子どもが、問題文の言葉には戸惑う場面を想像してみてください。この場合、点数だけでは、数の理解と問題文の理解を区別できません。これは考え方を示す例で、キズナの活動現場で観察した事例ではありません。絵や実物、本人が説明しやすい言葉も使って確かめれば、何を補えばよいかを考える手がかりになります。
教材を届ける前に、言葉の橋渡しを考える
UNESCOは、多言語教育の実践に向け、学習者の言語に合う教材、教員の養成・研修、保護者や地域の参加を挙げています。出典:UNESCOの実践提言。
これを教材支援に当てはめると、翻訳した本の冊数だけでなく、誰が読み聞かせや説明を担うのかも相談したい点です。言葉の選び方や挿絵が地域の日常に合っているかは、現地の教員やその言語を使う人と確かめられます。家庭の言葉と学校で新しく学ぶ言葉をどのようにつなぐかまで考えることが、教材を生かす準備になります。
よくある質問
母語で学ぶと、英語などの習得を妨げませんか?
母語を生かすことは、ほかの言語を学ばないという意味ではありません。UNESCOは、家庭の言語を土台にする教育が追加の言語学習も支えると説明しています。導入の時期や方法は、子どもの理解と教育環境を踏まえて考えます。出典:UNESCOの多言語教育解説。
バングラデシュの子どもの母語は、全員ベンガル語ですか?
全員が同じではありません。上で紹介したように、チャクマ語やトリプラ語なども受け継がれています。使う言語は地域名だけで決めず、本人や家庭に確認することが大切です。
日本語の絵本をそのまま送っても役立ちますか?
絵を楽しめる場合はありますが、それだけで読み書き教材として使えるとは限りません。対象年齢、使う言語、読む人や説明する人、必要な内容を受け取り先に相談してから選ぶことをおすすめします。
教育支援全体の考え方は、バングラデシュの教育支援とは?子どもの学びを続けるためにできることもご覧ください。
この記事は公開資料に基づく教育の解説です。キズナが母語教育事業を実施していることや、個別事業の成果を示すものではありません。資料確認日:2026年9月30日。
